経産省の「キャッシュレス・ビジョン」2025年までにキャッシュレス比率を40%に

今年の4月に、経産省が「キャッシュレス・ビジョン」という、キャッシュレスに関する方針を策定してました。
» 「キャッシュレス・ビジョン」「クレジットカードデータ利用に係るAPIガイドライン」を策定しました(METI/経済産業省)

先日、社内で勉強会を開いたのですが、そこから個人的にピンときたものを解説・抜粋していきます。
社内の勉強会に関する記事はこちら

キャッシュレスのKPI

もともと「未来投資戦略2017」の中で、下記のようにKPIが設定されていました。

キャッシュレス化を推進するためのKPIとして、「今後10年間(2027年6月まで)に、キャッシュレス決済比率を倍増し、4割程度とすることを目指す。」 としている。

これを2025年に前倒しをして、さらにその後のKPIを設定したのが今回のものです。

【支払い方改革宣言】
ここで、本検討会としては、大阪・関西万博(2025 年) に向けて、「支払い方改革宣言」として「未来投資戦略 2017」で設定したキャッシュレス決済比率40%の目標を前倒しし、高いキャッシュレス決済比率の実現を宣言する。さらに将来的には、世界最高水準の80%を目指していく。

世界のキャッシュレス事情


冒頭にも載せたこのグラフですが、まず日本は世界的にも低いキャッシュレス比率です。
およそ18.4%で、韓国の89.1%、中国の60%、イギリスの54.9%、アメリカの45.0%と比較してもかなり低いです。
ただ、キャッシュレスが進んでいる国の中でも、クレジットカード派閥とデビットカード派閥に明確に別れているのは意外でした。

また、保有カード枚数自体は、日本は世界で2位とのこと。
持ってはいるが、使ってはいない、という状況が日本。

さらに、スウェーデン、韓国、中国というキャッシュレス比率の高い国の事例を紹介しています。
細かくは本レポートを読んでいただきたいですが、どこも通貨危機やバブル崩壊といった経済的な打撃をきっかけに、脱税防止や犯罪防止、偽札防止といった名目で国家レベルで取り組んだ結果、となっています。
一番参考になるのは韓国の事例で、要はカードを使うインセンティブを国が用意し(所得控除と宝くじ)、加盟店も義務化した、という感じです。
・年間クレジットカード利用額の20%の所得控除(上限30万円)
・宝くじの権利付与 (1,000円以上利用で毎月行われる当選金1億8千万円の宝くじ参加権の付与)
・店舗でのクレジットカード取扱義務付け(年商240万円以上の店舗が対象)
なお、中国についてはこちらで。
» 日銀のFinTech資料(主に中国とキャッシュレスについて)

日本の状況

それに対して、日本でキャッシュレスが他国に比べて進んでいない理由を下記のように整理しています。

正直困っていないんですよね。現金で。そこまで現金に関する犯罪もないし。
実際、2017年末の紙幣の流通量は 106兆円超と、前年同期比で4%増加していて、GDPの約2割です。
どうやら他国はそうではないらしい。

また、加盟店も「導入するメリットが少ない」ということで、都内でも2/3はクレジットカード非対応で、消費者側もキャッシュレス社会に不安を持っている層が50%以上とのこと。



あと、世界的にも稀有なマルチアクワイアリング環境、というのも面白いポイントでした。
マルチアクワイアリングとは、一つの加盟店に複数のアクワイアラ(加盟店開拓側のカード会社)と契約できることで、故に、大規模加盟店ほど競争原理が働いて、加盟店手数料は安くなるが、規模が見込めない中小規模加盟店の手数料は高止まりしている、という指摘。

加盟店間の手数料格差がでかくなっている、というのも、加盟店側で導入が進んでいないとしている理由の1つです。
マルチアクワイアリングなのは、日本と韓国くらい?
もともと日本は、銀行がクレジットカードを発行してはいけないという法律の元、Visa・マスタカード・JCBだけでなく、UCカードやDCカードなど、ローカルブランドが勃興して、一つの加盟店にたくさんのアクワイアラが付くマルチアクワイアリングが定着してしまいました。
しかし良い点もあって、一つの端末に複数のアクワイアラが乗っかる技術は進みました。
なので、加盟店に謎の端末がたくさんおいてある状況にならなくなったのは良い点。
でもそれがPOS端末維持費の高騰につながっているかもしれない。

総評

目標が低い!とか遅い!とか色々コメントを見ましたが、個人的にはかなり攻めた目標だと思います。
もちろん勝手に毎年1%ずつくらいは増えるのですが、普通に考えて2025年でも、25%くらいだろうと思っています。
民間だけでできることとして、個人的に思いつく方策は、下記くらいかなーと。
・カード会社のシステムコストが高すぎる。SIer頼みの状況を打開して、コスト削減し加盟店手数料を下げていく
 それに関連して、少単価のコストが高すぎる。業界全体で少単価決済への取組が必要と感じています。普通に1000円未満で使われるとカード会社は赤字の状況です。
・ポイント以外のインセンティブを作る。例えばクレジットスコアが貯まることで家賃の保証料が安くなる、等の仕組みづくり
こういう工夫をした上で、加盟店の義務化やその他もろもろを駆使して、頑張ってなんとか40%いけるかなーと。
ただ、決済機能を提供している企業としては、圧倒的に使われるサービスを提供して、外部環境無視して貢献できれば、とも思っています。
AliPay/Wechat Payもそうして広まったわけですし、国に何か期待するのも微妙だと考えます。
ちなみに、こういうことを定期的に社内で共有しています。
» 【カンム紹介】前提知識の平準化のための勉強会

クレジットカードに関するデータ標準化ワーキンググループ


経産省が1年くらい前から進めてる、決済データ上の加盟店情報標準化の方針についてです。
■目次
【日本】クレジットカードに関するデータ標準化ワーキンググループの報告書
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【日本】クレジットカードに関するデータ標準化ワーキンググループの報告書

http://www.meti.go.jp/press/2016/12/20161226003/20161226003.html
イシュアに提供される決済データ上の加盟店データが整備されなさすぎてるから、ちゃんと整備しようぜ!っていう経産省の試みの方針が発表されました。
※まだざっくり読んだだけなので不正確かも
イシュアが受け取る決済データには、加盟店情報として、店名、国名、MCC(Merchant Category
Code=国際標準業種コード)等が含まれるのですが、まずMCCがアクワイアラや加盟店のさじ加減で決められているのでバラバラだったりするのと、店名も途中で切れたり、十分にイシュアが加盟店を識別できていない現状があります。
それに対して、直近では2つの案が提示されていて、①まずMCCを整備しましょうと。
同じ喫茶店でも、アクワイアラが違えば、5812(Eating Places and Restaurants)であったり、5814(Fast
Food Restaurants)だったりと、統一感がないのをちゃんと日本に合ったガイドラインを作る、ということです。
この画像がわかりやすいです↓

こういう悩ましい問題は結構多くて、例えばアウトレットモールは日本独自の業態で、それをどう整理するかとか。
あとは複数カテゴリを提供する加盟店問題。
無印良品を単純な雑貨屋に入れてよいのか?というのは難しいところで、文具も売ってれば服も売ってるし、最近は家具も多い。
本質的には、1加盟店に複数のMCCを紐付けられるのが理想だとは思うのですが、現状、ネットワークがそれに対応していないので、まずは一番ぽいMCCを選択せざるをえないのでしょう。
2つ目は、②郵便番号の付与です。
伝票の中に郵便番号を含めれば大体の住所が分かるし便利!という代物です。
既にマスターカードではそれに対応しているというのは知りませんでした。
こいつの課題は、一括本部契約問題。
例えば、全国に1,000店舗あるような加盟店の場合、アクワイアラによっては、本社で一括契約して、決済は全部同じ店名・住所みたいなことはかなりあります。
これを浸透させるには、加盟店側の努力も必要となるでしょう。
また、コンビニ等では、同じオーナーがフランチャイズで複数の店舗を経営している場合、決済端末を勝手に別店舗で使っちゃうとかよくある話で、それも管理できるのか?というのは結構思い話題です。
ただ、今まで放置気味だった状態なので、これで割りと使いやすくなりそうな気配はします。
経産省としては、インバウンド含めたマーケティング用途で活用したそうな感じですが、私個人としては、直近でこのインパクトが大きい領域は、不正検知領域だと思います。
わかりやすい不正検知のルールとして、北海道で決済して、10分以内に沖縄で決済したカードは確実に怪しい、というのがありまして、郵便番号がちゃんと付与されるとかなりこのルールを適用しやすくなります。
要は普段は北海道で決済してるのに、漏れたカード番号が沖縄で使われたという話です。
よって、この標準化が進むと、不正検知の仕組みが一気に進化するのではないでしょうか。
それでは、この標準化が実際どこまで進むのか?
この報告書にある委員会は、ビザ・マスターカード(=VM)はもちろん、MUN、SMCC、UC、楽天カードと、日本を代表するアクワイアラが名を連ねており、一応VM上では、日本の80%はカバーできる布陣ではあります。
しかし、JCBがここに載っていない点と、正直アクワイアラからすると、大変そうな割にあまりメリットのない施策だと考えられ、ちょっと不穏な気もします。

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宣伝ですが、今回イシュアとしてのオペレーションを回している中で、あまり世の中に伝わっていないカードの仕組みとかを、こちらのコラムで書き始めていますので、もしよろしければご笑覧ください。
» ビットコインの使えるサービスやお店は?決済についてまとめてみました
https://hello.vandle.jp/bitcoin-payment/