キャッシュレス決済のステージ別分析(ユーザーと加盟店のにわとり卵問題)

最近多くのキャッシュレス決済手段が増えています。
どれが今どのステージにいるのか?何をしようとしているのか?がごっちゃになって語られているため、より混乱しているように思えます。
せっかく日本では、昔からブランドクレジットカードや電子マネーといった決済手段があり、歴史も古いです。
それらと比較して、今どのステージにいるのか、整理してみました。
続きはnoteで。
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キャッシュレスを普及させるにあたって、根本的な解はデビットカードの普及だと思います

Twitterに書いてたやつを忘れるのでブログに転載。


キャッシュレスを普及させるにあたって、根本的な解はデビットカードの普及だと思います。
クレジットカードは、与信にコストが掛かりすぎている。
それが加盟店手数料に乗っている。
リアルタイム処理コストは極めて安くなっているので、低手数料を実現するにはデビットの普及がマスト。
国家的な縛りがない国でキャッシュレスが進んでいるのは、デビット比率が高い国ばかり。
なぜ、日本でデビットが普及していないか?というと、1982年まで、銀行は法的にクレジットカードを発行できませんでした。
そのためノンバンク(特に小売業)がクレジットカードを発行して、分割・キャッシング・リボのビジネスモデルで一気に普及させてしまいました。
ただの決済やるより貸金の方が儲かるため、その分会員サービスが充実し、収益性の乏しい普通のデビットでは勝てなくなっているのが今。
そんな中プリカに注目が集まっています。
プリカならオートチャージという仕組みでほぼほぼデビットのような振る舞いをすることができます。
ただ、プリカの課題はチャージコストが高いこと。
発行体が銀行なら行内移動なので無料ですが、銀行でない場合、振込/収納代行のコストがかかります。
平均単価5000円をチャージするのに100円程度かかっているのが現状です。2%です。
実はクレジットカードの方が、月次でまとめて口座引落するので、単価が上がり、資金移動のコストが安くなります。
仮に40000円決済したら口座振替に100円かかるとして、0.25%。1%踏み倒されたとしても、1.25%。先のプリカ(2%)より安いです。
この構造から、今年はクレジットウォレットが増えると思います。
根本解決には、銀行主体の決済インフラ構築か、口座からの引出しコストを下げるの2択。
前者はやり方不明。
残るは後者で、全銀ネットやCAFISの手数料が下がることを期待するのですが、全銀ネットについて言えば、国際的にはまあまあ安い手数料感。
60円/件は、英米よりは高いけど、アジア他よりは安い。

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/customs_foreign_exchange/sub-foreign_exchange/proceedings/material/gai20150518/03.pdf
[追記]
これはあくまで中央銀行ネットワークで、全銀ネットのようなACHとは違うというご指摘を受けました。
そのとおりで、全銀ネットの単価は公表されておりませんが、その単価が高いという問題意識は業界全体である、ということです。
資金移動コストを下げるにはトランザクションを増やす必要がありますが、トランザクションを増やすにはコストを下げる必要があるという鶏卵状態。
トランザクションについても加盟店が先か?会員が先か?の鶏卵があり、二重の鶏卵状態なのが今の日本なのだと思います。
加盟店が先か?会員が先か?の鶏卵は、金をかけてどちらかを一気に増やす必要があり、そういう意味で公的資金を投入するのはまっとうな戦略っちゃ戦略だと思います。
個人的には、まず「ランチ時は使えません」という謎対応の徹底排除もほしいところですが。

ここ1年のキャッシュレス関連ニュースをまとめた〜クレジットカード、デビットカード、プリペイドカード、電子マネー、スマホ決済の違い〜

最近キャッシュレス関連のニュースをよく目にするようになったので、カテゴリ分けしてリストアップしました。
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1ShzEbNjxgvuy9tgjMO9KCwpazmlHP76zDbn_0cCjhOs/edit?pli=1#gid=2126206255
このカテゴリ分け、最近取材される時に毎回説明している気がしていて、どっかで整理しておきたかったもの。
これで、クレジットカード、デビットカード、プリペイドカード、電子マネー、スマホ決済の違いあたりはわかりやすくなると思います。
カテゴリ分けするに当たり、この2軸を理解するのが重要です。
横軸:使える場所
・国際ブランド → Visa/マスターカード/JCB/Amex/ダイナース/銀聯
・汎用型 → 国際ブランドではないが、幅広い店で使える
・ハウス型 → ある特定の店でのみ使える
縦軸:引き落としタイミング
・プリペイド(先払い) → 先にチャージしておく
・デビット(即時払い) → リアルタイムに銀行口座から引き落とされる
・クレジット(後払い) → 後でまとめて支払う
なお、法的には決済とポイントは明確に別れているので、ポイントカードもこの軸に入れてます。
決済手段は現金で買える、ポイントは現金で買えない、と理解すれば簡単です。
また、それぞれのカテゴリについてのニュースをまとめました。
半年前でも懐かしいものが多いですね。
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1ShzEbNjxgvuy9tgjMO9KCwpazmlHP76zDbn_0cCjhOs/edit?pli=1#gid=0
※11/2(金)にこれを肴にFinTech WATARU会 #5 「今年のキャッシュレス系ニュース振り返り」(カジュアル版)やります。
https://connpass.com/event/103354/
ここでは目新しいカテゴリだけ解説します。

ブランドプリペイドカード


国際ブランド×プリペイドで、要はVisaプリカです。
世界で使えるブランドのプリペイド版です。
日本では、2014年にau Walletが出てからメジャーになりました。
欧米では、ほとんどの店舗で使えるため、銀行口座持てない人向けに、給与振込先カードとしても使われることが多いです。

ブランドデビットカード


国際ブランド×デビットで、要はVisaデビットです。
日本では、2006年に、話題のスルガ銀行が初めて発行しました。

電子マネー



国際ブランドではない、汎用型でプリペイドあるいはポストペイ(後払い)のカードを電子マネーと呼びます。
別の言い方をすると、店頭でピッっとカードやスマホをタッチすると決済できるものを、いわゆる電子マネーと呼んでいます。
一番最初の電子マネーは、2005年に誕生したEdyとSuicaです。
店頭決済を1秒以内に収めるため、物理カードに残高が保存される、Stored-Value型が主流です。
カードに保存されるとインターネットを経由しないので早いのです。
また、ややこしいのが、チャージ式のプリペイドとポストペイ(後払い)がある点です。
とは言え、ポストペイは、QUIQPayとiDしかありません。
Apple PayやGoogle Payは、このQUIQPayとiDのインフラを使って提供しています。
日本ではカードと言えばクレジットカードなので、後払い決済ができるインフラが必要で、そこでこのポストペイ型の電子マネーをインフラとして使っています。
Suicaも使えるっちゃ使えますが、あくまでApple PayにSuicaそのものを登録して使っているだけで、Apple Payに登録したクレジットカードを使ってSuica加盟店で決済することはできません。

スマホ決済/QRコード


新たな勢力として、電子マネーではない、汎用型の決済手段を提供しようとしている人たちです。
プリペイド式と、銀行が提供するデビット式があります。
電子マネーの課題は、非接触(ピッとやるだけ)でユーザーは便利なのですが、読み取り端末が高価で加盟店の負担が大きい、というところで、そこを紙に印刷したQRコードなら安いやんけ!っていうことで広めようとしています。
なお、プリペイド式の各社は、いわゆるPSP(決済代行)の立場で営業してたりもするので、そのアプリに登録したクレジットカードでも支払えることが多いです。
ちなみに、国際ブランドも非接触やQRコードに対応しています。
イギリスやオーストラリアでは、非接触率が5割を越えています。
アジア圏ではQRコードも普及させようとしている模様です。

ハウスプリペイド/ハウス電子マネー


小売や飲食店が、自社だけで使えるプリペイドカード/電子マネーです。
ポイントカードと比較して、自分でチャージして使うので、顧客囲い込み度が高く、かつクレジットカード等他社の決済手段で取られる手数料も発生しないので、活用する企業が増えつつあります。
古くは、nanaco/WAONも、自社店舗のみで使えるハウス電子マネーでしたが、使える場所が増えて汎用型に進化した経緯があります。

参考

もっとプリペイド/デビット/クレジットカードの違いを知りたければ、以前寄稿したこの記事をご覧ください。
» キャッシュレス決済の基本、「クレジット」「デビット」「プリペイド」はどう違う?

経産省の「キャッシュレス・ビジョン」2025年までにキャッシュレス比率を40%に

今年の4月に、経産省が「キャッシュレス・ビジョン」という、キャッシュレスに関する方針を策定してました。
» 「キャッシュレス・ビジョン」「クレジットカードデータ利用に係るAPIガイドライン」を策定しました(METI/経済産業省)

先日、社内で勉強会を開いたのですが、そこから個人的にピンときたものを解説・抜粋していきます。
社内の勉強会に関する記事はこちら

キャッシュレスのKPI

もともと「未来投資戦略2017」の中で、下記のようにKPIが設定されていました。

キャッシュレス化を推進するためのKPIとして、「今後10年間(2027年6月まで)に、キャッシュレス決済比率を倍増し、4割程度とすることを目指す。」 としている。

これを2025年に前倒しをして、さらにその後のKPIを設定したのが今回のものです。

【支払い方改革宣言】
ここで、本検討会としては、大阪・関西万博(2025 年) に向けて、「支払い方改革宣言」として「未来投資戦略 2017」で設定したキャッシュレス決済比率40%の目標を前倒しし、高いキャッシュレス決済比率の実現を宣言する。さらに将来的には、世界最高水準の80%を目指していく。

世界のキャッシュレス事情


冒頭にも載せたこのグラフですが、まず日本は世界的にも低いキャッシュレス比率です。
およそ18.4%で、韓国の89.1%、中国の60%、イギリスの54.9%、アメリカの45.0%と比較してもかなり低いです。
ただ、キャッシュレスが進んでいる国の中でも、クレジットカード派閥とデビットカード派閥に明確に別れているのは意外でした。

また、保有カード枚数自体は、日本は世界で2位とのこと。
持ってはいるが、使ってはいない、という状況が日本。

さらに、スウェーデン、韓国、中国というキャッシュレス比率の高い国の事例を紹介しています。
細かくは本レポートを読んでいただきたいですが、どこも通貨危機やバブル崩壊といった経済的な打撃をきっかけに、脱税防止や犯罪防止、偽札防止といった名目で国家レベルで取り組んだ結果、となっています。
一番参考になるのは韓国の事例で、要はカードを使うインセンティブを国が用意し(所得控除と宝くじ)、加盟店も義務化した、という感じです。
・年間クレジットカード利用額の20%の所得控除(上限30万円)
・宝くじの権利付与 (1,000円以上利用で毎月行われる当選金1億8千万円の宝くじ参加権の付与)
・店舗でのクレジットカード取扱義務付け(年商240万円以上の店舗が対象)
なお、中国についてはこちらで。
» 日銀のFinTech資料(主に中国とキャッシュレスについて)

日本の状況

それに対して、日本でキャッシュレスが他国に比べて進んでいない理由を下記のように整理しています。

正直困っていないんですよね。現金で。そこまで現金に関する犯罪もないし。
実際、2017年末の紙幣の流通量は 106兆円超と、前年同期比で4%増加していて、GDPの約2割です。
どうやら他国はそうではないらしい。

また、加盟店も「導入するメリットが少ない」ということで、都内でも2/3はクレジットカード非対応で、消費者側もキャッシュレス社会に不安を持っている層が50%以上とのこと。



あと、世界的にも稀有なマルチアクワイアリング環境、というのも面白いポイントでした。
マルチアクワイアリングとは、一つの加盟店に複数のアクワイアラ(加盟店開拓側のカード会社)と契約できることで、故に、大規模加盟店ほど競争原理が働いて、加盟店手数料は安くなるが、規模が見込めない中小規模加盟店の手数料は高止まりしている、という指摘。

加盟店間の手数料格差がでかくなっている、というのも、加盟店側で導入が進んでいないとしている理由の1つです。
マルチアクワイアリングなのは、日本と韓国くらい?
もともと日本は、銀行がクレジットカードを発行してはいけないという法律の元、Visa・マスタカード・JCBだけでなく、UCカードやDCカードなど、ローカルブランドが勃興して、一つの加盟店にたくさんのアクワイアラが付くマルチアクワイアリングが定着してしまいました。
しかし良い点もあって、一つの端末に複数のアクワイアラが乗っかる技術は進みました。
なので、加盟店に謎の端末がたくさんおいてある状況にならなくなったのは良い点。
でもそれがPOS端末維持費の高騰につながっているかもしれない。

総評

目標が低い!とか遅い!とか色々コメントを見ましたが、個人的にはかなり攻めた目標だと思います。
もちろん勝手に毎年1%ずつくらいは増えるのですが、普通に考えて2025年でも、25%くらいだろうと思っています。
民間だけでできることとして、個人的に思いつく方策は、下記くらいかなーと。
・カード会社のシステムコストが高すぎる。SIer頼みの状況を打開して、コスト削減し加盟店手数料を下げていく
 それに関連して、少単価のコストが高すぎる。業界全体で少単価決済への取組が必要と感じています。普通に1000円未満で使われるとカード会社は赤字の状況です。
・ポイント以外のインセンティブを作る。例えばクレジットスコアが貯まることで家賃の保証料が安くなる、等の仕組みづくり
こういう工夫をした上で、加盟店の義務化やその他もろもろを駆使して、頑張ってなんとか40%いけるかなーと。
ただ、決済機能を提供している企業としては、圧倒的に使われるサービスを提供して、外部環境無視して貢献できれば、とも思っています。
AliPay/Wechat Payもそうして広まったわけですし、国に何か期待するのも微妙だと考えます。
ちなみに、こういうことを定期的に社内で共有しています。
» 【カンム紹介】前提知識の平準化のための勉強会