アメリカの偉大なPFM:Mint.com

前回の記事で、Mintについて触れた。
アメリカのPFMサービスは、Mintを中心に動いてきた、と言っても過言ではないだろう。
ではなぜ、Mintがここまで成長してこれたのか?

Yodleeと契約

まずこのサービスを作るに当たり、ユーザーの銀行口座やクレジットカードのデータを引っ張ってこないといけない。
そこは金融先進国アメリカ。
Yodleeというアカウント・アグリゲーションを提供している会社が存在した。
すでにそういったデータを集約するインフラが整っていたわけだ。
MintのファウンダーであるAaron Patzer は、Yodleeのファウンダーと仲が良かったらしく、Yodlee APIのすべてを利用できた。
このTechCrunchの記事によると、年間200万ドルをYodleeに支払っていたらしい。
Yodleeのおかげで、Mintチームはプロダクト開発とマーケティングに専念することできた。
煩わしい、銀行との契約や、セキュリティの確保、データ抽出のシステム開発に時間を奪われずにすんだ。
これがMintの成長において、最も重要なファクターだった。(と、inDineroのJessica Mahは言っている
この時点で彼は25歳。一人で開発を進め、最終的に3人ではじめたらしい。

お金をかけないプロモーション

Yodleeとの契約でリリース自体は行えることができた。
では、どのようにしてユーザー数を伸ばしていったのだろう?
Quoraのこの記事にある通り、とにかくいろんなことを駆使しているのがわかるが、見たところあまりお金を使っていない。
まず、TC40(シリコンバレーのスタートアップビジコン)で優勝したことが、スタートダッシュとなった。
最近のTechCrunchの記事でも言及しているが、リリース後2時間で2万人のユーザーを獲得したという。
Aaron Patzer はこれが一番重要なPRだったとも述べている。
また、彼らが書いている、節約術やファイナンスのTipsなどを載せたブログも重要なプロモーションだったように思う。
今でこそ、そこかしこで見るInfographicsであるが、2008年当時では、MintがはじめてまともにInfographicsをPRに使っていたのではないか。
事実、それらの記事が、RedditやDiggなどを通して一気に広がっていった記憶がある。
初期の施策については、Aaron自身が書いたこの記事が詳しい。

既に存在していたPFM:Wasabeとの差別化

Mintがリリースされた当初、 Wasabeというサービスが既に存在していた。
なぜ、MintがWasabeを凌駕して、ここまで伸びたのか?
Quoraのこの記事を見る限り、プロダクトが良い、というのは置いておいて、やはりはじめからMintは、ビジネネスモデルが確立していたことが大きかったようだ。
Mintでは、自分にあったカードや保険といった金融商品をレコメンドしてくれ、ユーザーにとってもお得だし、Mintにも切り替え手数料が落ちる。
Wasabeには、そういう仕組みが存在していなかった。

Intuitに買収される

Mintは2007年の9月にリリースされ、2009年の9月には、Intuitに170万ドルで買収された。
この時点でユーザーは150万人いた。(via TechCrunch)
巷では、「売るのが早すぎる」と批判されたりしていたが、後にAaronは「これからもっと大きくしていくには、大手のセキュリティノウハウが必要だった」と、どこか(要出典)で語っていた。
最近、IntuitのFounderのScott CookがTCのインタビューに答えていた。
それによると、Mintは買収時から4倍も成長しているとのこと。
それがユーザー数だと、既に600万人のユーザーがいることを意味する。
まだ黒字化していないという話も聞くが、総じてこの買収は悪い買収ではなかったようだ。
ちなみに、2009年の初期に、Intuitからの130万ドルでの買収オファーを一度断っている。

日本にいながらアカウントを作るには?

ここまでMintのことを書いておけば、使ってみたい人も出てくるに違いない。
しかし、残念ながら日本の銀行口座やクレジットカードは一切使えないようだ。
そこで私は、三菱UFJ銀行系列のカリフォルニアにあるUnion Bankという銀行に口座を開いた。
これは日本にいながらアメリカの口座を持てる数少ない銀行の一つで、最低入金金額が1000ドルと最安だった。
こちらから申し込みできるが、開設まで1ヶ月くらいかかるだろう。
※この方法だとMintの中には入れるが、どこで利用すればちゃんとカテゴライズされたりするのか全く不明なため、活用には至っていない。

Solve a real problem and the world is yours

しかし、今更ながら、Aaronのこの言葉はしびれる。

(via Startup Quote)

アメリカの支出・資産管理(PFM)サービスまとめ

ここ3ヶ月くらい、ずっとこの分野を調べているので、整理のためにアウトプット。
PFMとはPersonal Finance Managementのことで、直訳すると個人金融資産管理。
ただ、家計簿的な支出管理を主軸にしたものや、資産管理のために投資ツールと結びつけるサービスなど、その領域は広い。
2007年リリースのMint.comを皮切りに、様々なPFMサービスが増えている。
特に最近は、SquareやSimpleなどの金融系サービスと共に、非常にホットな分野の一つである。
今回は、それらPFMサービスにどんなものがあるか、ビジネスモデルや機能にどのような違いがあるのか、具体的なサービスを挙げてまとめてみる。

Mint


(image via PCMag)
最もオーソドックスなPFMサービスで、この分野のさきがけ。
銀行口座やクレジットカードのログイン情報を入力すると、自動で残高や利用額、履歴を取ってきて、収入・支出などを1箇所で管理できるようになる。
予算管理や、履歴のカテゴライズ(食費、交通費など)ができ、「こっちのクレジットカードを使ったら年間5万円節約できますよ!」といった節約術をレコメンドしてくれるのがポイント。
ビジネスモデルは、主に広告で、ユーザーが新たにクレジットカードや保険に加入したら各金融機関から手数料をもらう。
利用は無料。
2007年9月にTechCrunch40というコンテストでβ版を初めてリリースし、優勝。
この優勝がmintにとって大きなPRとなり、急激にユーザー数を拡大し、1ヶ月でユーザー数100万人突破。
2009年にIntuitというアメリカの会計ソフト会社に170万ドルで買収される。
2011年1月時点でユーザー数500万人。
» http://www.mint.com/

Hello Wallet


自称(?)MintのライバルというPFMサービス。
機能自体は、対してMintと変わらない印象があるが、ビジネスモデルが違う。
こちらはB2Bで、主に企業の従業員向けにサービスを提供している。月額約$5/人。
よって、企業の意図が入った広告を載せる必要がなく、純粋にユーザーにとって良い支出管理のアドバイスを行える、としている。
事実、大学などで資産管理を研究しているアドバイザー陣が手厚い。
2012年のはじめにモーニングスターから1,200万ドルを調達し、既に1,500万ドル以上、調達している。
» https://www.hellowallet.com/

Personal Capital

こちらはより、資産管理色の強いサービス。
自分の投資や銀行利用や個人金融を一箇所で見れるようにした上で、適切な投資ポートフォリオを組めるようアドバイスを行ったり、ポートフォリオの現在の状況をわかりやすく表示している。
Mintを買収したIntuiteの元CEOが創業した会社で、TechCrunchでべた褒めされている。

ファウンダでCEOのBill Harrisはなんと、長年IntuitのCEOだった人だから、その道のベテランだ。すでに同社は、2700万ドルのベンチャー資金を調達している。今月の初めにPersonal Captialは、サンフランシスコで行われた金融とテクノロジのカンファレンスFinovateSpringで、最優秀賞を受賞した。だから、今後大物になること間違いなし、という予感がする。

動画で、Mintはソフト会社で広告モデルだが、うちは金融機関でライバルはバンクオブアメリカ等だ、と述べている。
» https://www.personalcapital.com/

SigFig


こちらも、資産管理色が強い。
401k(年金)を含めた個人金融を一箇所に集めた上で、それらポートフォリオを解析し、より効率的な投資についてアドバイスをもらえる。
特筆すべきは、創業者がAmazon社員時代Amazon Paymentを指揮しており、同時にWikinvestというWikipediaの金融版サービスのCEOも兼務しているところ。
金融データの扱いに関しては、頭ひとつ飛び抜けていることだろう。
» https://www.sigfig.com/

Strands Finance

主に金融機関向けに、ソリューションとしてPFMサービスを提供している会社。
機能としては、上記のもの達とさほど変わらないが、UIを色々とカスタマイズできる点がソリューションっぽい。
» http://spf.strands.com/

まとめ

と、5つのサービスをまとめてみたが、アメリカでは年々どころか1ヶ月に1回はどこぞが新しいPFMサービスを出している印象がある。
下記のリンクは、Finovate Spring2012という金融サービスのビジコンに出場した企業のリストなのだが、 10社以上にPFMというタグが付いている。
» FinovateSpring 2012 Sneak Peek: Part 1
» FinovateSpring 2012 Sneak Peek: Part 2
現状、Mint一人勝ちではあるが、Personal Capitalなどの有力企業も台頭してきており、今後どのように動いていくか楽しみな領域である。
今後は、Mintについてもっと深掘る、なぜ日本ではこのようなサービスが出てきにくいのか?、関連した別のビジネスモデル、などのテーマで書いていこうと思う。
ちなみに、企業向けのMintと呼ばれる、inDineroというサービスも有名。
» Indineroは小企業向けのMint.com–経営者による財務把握をシンプルに助ける